天上の海・掌中の星

    “とある真夏のサプライズ♪”


       
 〜天上の海 エンド



 とある盛夏の朝っぱらから、何とも珍妙な“人外”のお客人があり。人に仇なす邪妖を狩るという点で、お互いに似たような立場・存在だってのに。だからこそなのだろか、相手の底知れない存在感に危険性を嗅ぎ取ったその結果、大太刀構えてという一触即発状態にまで発展しかかった攻撃担当のお二人だったが。間が良いんだか悪いんだか、本来の駆逐対象にあたる“邪妖”が現れたのを、問答無用の二人がかりで薙ぎ倒したことで、その場の険悪な空気も収まっての……さて。

  「で? どうするね。」

 客人二人は、どうやら月夜見の眷属であるらしく。こちらへ来たときはまだ、朝も早くて黎明の余韻もあった時間帯だったが、もはやすっかりと、目映い日輪の力みなぎる頃合いにまで刻は過ぎており。彼らの存在を示す“特別な力”を発揮せずしては戻れない。どうしたものかと顔を見合わせた二人へ、


  「……じゃあ、こうすりゃあいい。」


 サンジが思いついた妙案というのが………。






       ◇◇◇



  ―― あ、島田さんですね。お待ちしておりました。


 仔猫の首輪に記されていたのは、プライバシーを守るためのそれ、問い合わせ用にとアカウントを取得した専用ダイヤルらしき番号で。それ経由という格好で、ルフィが(途中からサンジに替わったが)迷子の仔猫、久蔵くんをお預かりしておりますと通報したところ、すぐにも迎えに参りますとのお返事が速攻で返って来た。それはそれは案じておられたようで、しかも電話の最中に、いきなり仔猫へと戻ってしまった久蔵本人の放った愛らしい鳴き声も随分な効果があったらしく、

 「…すごい機転だな、お前。」
 「にゃ?」

 もう仔猫へと意識を封じてしまっていたから、そんなことを思いついたご本人へは届かないまでも。感嘆の賛辞を述べねば収まらなかったらしい兵庫さんだったようなのも、なかなかに印象的だった一幕で。そうこうするうち、仔猫の久蔵くんのお迎えにとやって来たのは。風貌も物腰もそれは凛としていて何とも麗しい金髪のお兄さんと、そんなお人とは対照的に、重厚な雰囲気にあふれて なかなかの存在感がある、壮年の男の人という二人連れだったのだが…。

 「…で?
  連絡したってことは、向こうから迎えに来させるんだなってのは判ったが。」

 彼らの住まう自宅のある町からは、随分な距離のあるこんな遠くまで。こんなにも小さな小さな仔猫が、どうやって迷い込んだと説明するのかと。切れ長の目許をますますのことぐいと眇めたゾロと、どんぐり眸をますますと見開いたルフィとから、うんと注目されたサンジの出した答えは、

  「あ"? 決まってるだろ? ばっくれんだよ。」
  「…………っ☆」
  「あ、黒猫さんがコケた。」

 そんな堂々と、新しいたばこに火ぃ点けながらって余裕で言うことじゃあなかろうにと。これにはさしものゾロでさえ、口許歪めて呆れたが。そんな皆様へと、たばこの先をホワイトボードを指すアンテナペンのように振って見せつつ、

 「いいか?
  俺らはただ、
  ここのご近所で迷子になってた仔猫を見つけて保護しただけだ。」

 そしたら、首輪に電話番号が記されてるじゃあありませんか。それで大急ぎで連絡したまでです…と、ポイントポイントでたばこや人差し指をそれらしく立てて見せての、演技力もふんだんに。判りやすいご説明をくださった聖封様だが、

 「……ばっくれる。」
 「丸投げかい。」
 「何言ってる、これが一番問題ない手だぞ。」

 この坊主に物怪を見顕す力がなかったなら、何の騒動も起きないまま、そうと運んでいただろうことだ。だから嘘も偽りもなし、問題も一切無しと、口許へたばこを戻しつつ言い切ると、

  「いいな? 知らぬ存ぜぬで押し通す。」

 そうときっぱり言い切ってから、その迫力に少々身をすくめていた、客人の二匹の猫さんズへも、いいなとわざわざ指差して確認しての、この運び。久蔵の方はそれですんなり帰れるし、兵庫という相方さんが変化(へんげ)した黒猫は、ご挨拶を交わす隙にでも こそりと彼らが乗って来た車へ隠れて便乗させてもらって帰ればいいという作戦だと語ったサンジだったのへ、

 「繊細そうに見えて、大胆なことをする奴だな。」

 猫に変化しても人語を使える兵庫が、感心してか呆れてか、感に堪えぬという声で呟いて見せ。聞こえてるぞということか、細い背中がひょいと肩を竦めたのへと、こちらも尻尾をくるんと揺らすコンビネーションが、なかなかに軽快な二人であり。

 「なあなあ。」
 「ん?」

 そんな黒猫さんの頭を、手のひらでくるみ込むようにして撫でてくる、そちらさんも小さな手があり。何でしょかと顔を上げれば、いつの間にこうまでお傍に来ていた彼か、お膝にキャラメル色の仔猫を乗っけたルフィが、すぐのお隣りへ腰を下ろしており、

 「シュマダって誰だ?」

 と、訊いてくる。それへ、
「こやつがこの猫の姿のときに世話になっている人間だ。」
 さっきの電話の相手だった若いのが同居している屋敷の、家主にあたる壮年のことだと。やや省略気味ながらそうと説明しつつ、すんなりと受け答えをしてから、だが、

 「……何でその呼び方を知っている?」

 幼児の姿のおりも、猫の言葉しか発しない久蔵であり。そして、その“シュマダ”という舌っ足らずな呼びようは、そんな身になっているときにしか使われない。よって、久蔵の猫語による幼児語を耳にし、それを…意味はともかく人の語として判る者でないと、今のような訊きようは出来ぬはず。なのにどうしてと、つぶらな瞳を微妙にしかめた黒猫さんへ、

 「ん〜? だってよ、やたら、シチがシュマダがって ゆってたぞ?」
 「………☆」

 俺もゾロも、そういうのは何となく判るんだな、と。にししと楽しそうに笑ったルフィであり。だからこそ、

 『あんな、この番号に電話したら、でいいからさ。
  時々、久蔵と話しとかしてもいいかな?』

 首輪に記されていた迷子用の電話番号。そこへの電話へという形で、時々仔猫さんとお話ししてもいいかなぁと、素っ頓狂なことを言い出したルフィだったのかも知れぬ。

 『電話で話が出来るなら、お家へ帰っても久蔵は ずっと俺の友達だ。
  だから、あのその、いいかなぁ?』

 ちょっぴりもじもじしながら伝えた微妙なお願いへ、だが、向こうのご家族は何と応じたかと言えば……。





      ◇◇



 何が何でも ばっくれろ大作戦は、特に不審がられることもなく成功を収め。黒猫さんもこそりとお迎えの車へもぐり込めたようで、仔猫さんたちの内緒は無事に守られたまま、帰宅の途に問題なく着けた模様。

 「いやぁ〜、カッコかわいくて強いなんて、
  1粒でどんだけ美味しい奴なんだか♪」
 「こらこら。」

 よほどの滅多な運びにでもならぬ限り、そうそう再会も叶わぬだろう彼らだが、なかなかに印象的だったためか、すんなりと“もう終しまい”と片付けてしまえぬこちらの面々でもあって。

 「あの島田さんとやらいうご家族二人は、久蔵をどう把握してるんだろな。」
 「ああ、そういえば兵庫とやらからも聞けなかったな。」

 彼のことを“猫”の知己として把握している二人だというのは話の流れから聞いたものの、じゃあ久蔵は? やはりメインクーンの仔猫としての把握しかされてはいないのだろうか。自身へと封印を掛けまでして、その傍らに身を置くガーディアン。そんな存在だということも、そんな護衛が付いているということも、どちらも知らないままがいいには違いなかろうが。それって何だか…報いがなさすぎないのかねぇと、珍しくも感じたサンジだったのは、

 “ああまで無表情な野郎が、
  なのに、何が何でも護りたくってだろ、
  自我を殺してまで、すぐ傍へ張りついてるってのがな。”

 自分のように、それこそが使命でアイデンティティーとするよな、生まれだということか。それにしちゃあ、融通が利かない不器用なところも多々窺えたし、迎えに来た七郎次とやらへ、それはそれは愛らしい声で鳴きついて駆け寄っていた様子は、ただの適応擬態とは思えないほどに甘やかだった。義理や使命じゃあなくの、本人の意思や希望でやってる護衛としか思えないが、ああも要領の悪そうな不器用者が、それも理解者が全くいないまま? だったらそれって、辛いばかりの苦行じゃあなかろか、他人ごととは言え やりきれないなぁと感じてしまい、しょっぱそうなお顔になりかけた聖封様だったのだが、

 「猫の下の顔までは、見抜いてると思うぞ。」
 「お?」

 そうと言い出したのが、当家の坊ちゃんであり。

 「何で判るんだ?」

 あの年頃の男にしちゃあ大仰ではあったが、家族も同然な迷子の愛猫が やっと見つかった…っていう、感激の模様にしか見えなんだぞとの意を載せて言い返せば、

 「だってよ、あの七郎次さんとかいう人、
  久蔵の首輪を撫でてから、その下の襟も直してた。」

 「…………………お。」

 やっと逢えたねと感動の抱擁をし、仔猫の小さな肢体をぎゅぎゅうと懐ろへと抱きしめたその後で。いい子いい子と頭や背中の毛並みを、その白い手で優しく撫でてやってから、そんなこんなで少々くしゃくしゃになってしまったの整えるように、指先でちょいちょいと小さく撫でてらした彼だったのだけれど。メインクーンの仔猫の大きな特徴である、大きめの耳や胸元のふかふかな毛並みを愛おしげに撫でたのは勿論だったが、その手がそのまま、細くて小さな首輪を確かめてから、

 「あの、薄手のサマーセーターみたいな服を、
  着てるっていうのが判ってるっていう直し方だったしさ。」

 もしかして、あの七郎次って兄ちゃんが腹ぁ痛めて生んだ子かって思ったくらいに、仔猫じゃなくて坊やだと判っててって構いようしてたからな。

 「久蔵を抱っこしたあとは、
  もうもうずっとずっと、
  一時たりとも目が離せないって感じでいてさ。
  おっさんの方が俺らの相手してただろ?」
 「おっさんて…。」

 そりゃあまあ、いいガタイだったその上、髭に蓬髪にと なかなかにムサイ風貌してらしたが、と。ついついポロリと本音を零したサンジだったのはさておいて、

 「きっとさ、そうは見えない人のが多いから、内緒にしてんだぜ?
  そいで その分も、そりゃあそりゃあ大事に可愛がってんだ。」

 あんな可愛い子だからってだけじゃなくってさ。ああまで、お迎えへ思い切り飛びついたほど“大好き好き好きvv”って懐いてるくらいに。本身の方の二刀流の兄ちゃんも、出来れば騒がず穏便に帰りたいって思ったほどに大事にされててさ。そいで、だから、

 「あの二人が、大々々々々々々、大好きなんだぜvv」

 と。くふふと幸せそうに うっとり微笑った、こちらの坊っちゃん。結構な大きさの邪妖をねじ伏せた修羅場にも居合わせたというに、それを吹っ飛ばしたほどの 思わぬ“大好き”のオーラにあてられでもしたものか。すぐのお隣りへと座した、緑頭の頼もしい破邪様の胸板にぽそりと凭れると、


  ―― なあなあ、俺もさ、
     ゾロんこと、大々々々々々々、大好きなんだからな?

     なんだ、あのキュウゾウとやらと同じレベルかよ。

     んん?(指を折々数え直して)
     うっとぉ、大々々々々々々々々々々々々、大好きだっ。

     よぉっし、じゃあ俺はその倍だ。

     ズボラしてんじゃねぇっ。



 大荒れの夏がいきなりの辣腕の乱入でもっと荒れかけたってのに、呑気なもんでございまし。何かさっぱりした昼飯でも作りますかねとキッチンへ退いていたサンジが、砂を吐くほどの甘さの砂糖水で茹でたそうめんでも出したろかいと画策しちゃった、危険な盛夏だったそうでございます。








          仔猫さんとご家族の感動の再会はこちら →





  *おまけ



 「勘兵衛様、今日、あのルフィくんから電話が掛かってきたのですよvv」
 「ほほぉ。」
 「久蔵もご機嫌でお喋りしていて、
  不思議と話が通じているのが何とも可笑しくて。」

 今日は何をした? そうか、プールで遊んだかって。ちゃんと話が通じているのが驚きだったのですがと、ころころ笑いつつ告げる七郎次さんへ、
「………おいおい、それって。」
 身振り手振りの利く会話でもないのにかと、率直に不審を覚えたらしき島田勘兵衛さんだったが、

 「何でも、ルフィくんて凄く勘のいい子なんだそうですよ?」

 そもそも、久蔵の側から、お声だけでも相手を察してしまうほど、ああまで懐いた人というのも珍しいことですしねと。それ以上は、深く不審を探らぬつもりの、七郎次お兄さんであるらしく。夜半になってやっとのこと、仕事である執筆から離れた御主が、やれやれという苦笑とともに見やった先、ソファーの上へ置かれた少し嵩高な仔猫のベッドには、小さな坊やがくうすうと、不思議な輪郭もて眠っておいで。いろいろな不思議の着いて回る和子だけれど、自分たちには愛しい家族。そしてそんな彼に新しいお友達が出来た。それでいいじゃないですかと、とっときの吟醸酒を用意しつつ、青玻璃の目許を細め、にこりと微笑むお兄さんだったそうな。







   * そして、蛇足のおまけ


 【 2010年 高校総体、剣道男子個人部門優勝の、島田久蔵くん。】

 テレビ画面に映し出された、道着姿の凛々しい男子高校生へ、

 「……………え?」

 ワンテンポおいてから、ああ―ーっと指差して慌ててくれたら、何か嬉しかったりして? ( そっちは別人ですってば。)





  〜Fine〜  10.08.13.〜08.22.


  *長々と引き伸ばしちゃったお話へ、
   お付き合いをどうもありがとうございましたvv
   1週間以上も掛かってしまいましたね。
   そこが一番の計算外です。(おいおい)

  *先のお話の後書きで、
   今年の高校総体の開催地・沖縄で、
   他のお部屋の高校生キャラとご対面とかしてたら
   楽しいだろうねなんて話を振っておりまして。
   他のお部屋の方では、
   シリーズの違う子らが出会ってしまうという小ネタが
   果たせもしたのですが。
   そっちでは無理があったとしても、
   じゃあこういう出会いはどうですかと、
   以前、電○ネタを振ってくださった いっちーさんが(こらこら)
   お声かけ下さいまして。

   当然のことながら どっちにも通じている私には、
   勿論、楽しいネタじゃあありましたが、
   版権ものの、しかもパラレルもの同士という、
   原作からも少々離れたもの同士の合体と来て。
   どうやったら判りやすいかなと、随分と頭をひねりました。
   これだって、
   ワンピか侍七かの どちらかしか知らない判らないお人には、
   不親切極まりない出来だったことでしょうね。
   そこのところは平にご容赦です。
(苦笑)

  *追記 いちもんんじさんから、可愛らしい作品を頂きましたvv
   かぅあいいったらvv  
こちらvv

**ご感想はこちら*めるふぉvv

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コラボページへ よろしければ、お侍様のお部屋サイドへもどうぞvv


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